俳句・短歌 短歌 故郷 2022.04.14 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第101回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 西安に行くよと友の弾む声 万里の城のウォーアイニー哉 織姫と彦星出逢う七夕の 星のロマンス友と為す哉 求め合い離れ離れを乗り越えて 互いに愛し出逢いを作る
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『標本室の男』 【第28回】 均埜 権兵衛 この広い世の中には一人くらい自分を受け容れてくれる人がいるだろう。そう考えて自らを慰めた。 周りには名も知らぬ黄色の花が咲き、その先に満々と水を湛えたダムが見えていた。そしてさらに向こうには両翼に山脈が延びている。振り返ると背後にも山並みが聳え、本当に見渡す限りの山だった。遠くから車の音が聞こえてきた。どこを走っているのかは判らないが、その音で一日の始まったことを感じた。骸骨は少しぼんやりしていた。もう少しここにいたいような気がした。一瞬このままここで暮らしてみようかとも考えた。どこへ…