俳句・短歌 短歌 故郷 2022.04.21 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第102回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 代えられず繰り返されぬ空蝉の 命損失何で償う 汚れてたTシャツ川で洗う友 過去思い出し涙溢れる 多種の草顔を合わせる道の隅 歓喜を謳う夫々の生
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『ヴァネッサの伝言』 【第35回】 中條 てい 「あの者が今日から行方不明になりました」イダの顔がはっとこわばった。「お前、まさか……」 イダの庵がそこから近かったのと、あそこの戸口がいつも施錠されていないことを彼は知っていたからだ。イダはまだ火の傍に置いた背もたれ椅子で眠っていたが、気配に驚いてびくっと飛び起きた。「申し訳ありません、イダ様。まだお休みのところを起こしてしまいましたね」シルヴィア・ガブリエルがすまなさそうに小声で謝ると、イダは目をこすりながら、「何じゃお前か! 人聞きの悪いことを言うな、儂はもう夜明け前には起きて…