【前回の記事を読む】世界初の免疫作用を発見しても…海外の目に触れない研究者

一躍学会の寵児に

今日でいうTリンパ球、Bリンパ球なる概念は全くなく、リンパ球を大中小で分類していた時代にこのデータである。胸腺細胞機能を抑制すると、細胞性免疫をほぼ完全に抑制するが、同じリンパ球の脾細胞、腸間膜リンパ節細胞ではほとんど抑制しない。今考えてもこの知見の発見は先端的、先鋭的なものであった。私自身このデータの意味すること、当時の免疫学においてその位置づけがとっさには理解できなかった。

これらの解析を進めるべく3種のリンパ組織の抽出液を作り、オクタロニー法で沈降線の性状をみた。その結果、数本ある沈降線の内ATSと胸腺細胞間に独立した沈降線を認めた。これがその原因物質かもしれないという理解までは進んだ。

しかし、先入観というものは恐ろしい。リンパ球は同一細胞で大中小リンパ球は成熟の過程を示しているという認識だけで抗原性が異なるという発想にはつながらなかった。リンパ球間で抗原性が変わることはありえないと決め込んでいた。根拠のない考えにとらわれたわけである。

今考えれば成熟過程で抗原性に変化が起こりうると考えられる上に、この一本の沈降線から胸腺リンパ球と脾リンパ球は異なる抗原性を有する別のリンパ球であると明確に言及しかつ英文で発表していれば、大変なことになっていたかもしれない。追いつめていたが。捕まえきれなかったということである。

これら一連のデータを当時の移植学会で発表したが、皆一様に驚きこそすれ、その意味を理解してくれる人はおられなかった。それでもこれら一連のデータを当時のわが国の免疫学をリードし、自他ともに日本免疫学をリードしていると思われた先生方にご説明し、お考えをうかがったことは数知れない。

しかし、的確な回答、コメントはなく中にはやり方に問題があったのでしょうとまで言ったお偉い先生もいた。日本にいてはだめだ、日本を離れ海外へ活路を見出そうと私の心はすでに日本を離れていた。卒業後4年目で日本の博士号を取得したころである。