サッケードについて
前にふれましたが、サッケードは基本的に周辺視野での対象に瞬間的に視線を向け、対象を中心視野でとらえるものです。
これには反応性のものと意識的なものとがあり、反応性サッケードの場合は、対象をとらえてから、次のサッケードの開始まで、約200ミリ秒間の不応期(サッケードを開始できない時間)があるとのことです。つまり約200ミリ秒の間、対象に視線を固定する(固視する)こととなります。
また、サッケードは速くても1秒間に3回程度とのことです。このことは、逆に考えますと、中心視野で対象を詳細(明瞭)に知覚するためには、そのくらいの時間(百数十〜二百ミリ秒程度)がかかっているということにもなり、さきほどからの、中心視野ではっきり見えるまでにある一定の時間がかかっていることが、このことからもうかがえるように思います。
それでは仮に、サッケードで対象をとらえてから、それをはっきりと知覚するのに必要と思われる百数十~二百ミリ秒よりも速く、他に視線を移動させたとした場合、そのときの中心視野での見え方はどのようになるのでしょうか(意識的サッケードではこれは可能ですが、ふつう日常ではこのようなことはあまりされないと思われるわけですが)。
これは、1秒間に4~5回以上視線を移動させたらどうなるのかとも言い換えられるでしょう。仮にそのように速く対象から視線を他に移動させたとしても、中心視野にぽっかり穴があいたり、暗くなったりしてそこだけ見えないというようなことは経験されないでしょう。
つまり、中心視野で見えるためには相応の時間がかかっているはずなのですが、そのかかるはずの時間よりもはやく視線を他に移してもその対象は見えるわけで、ということは、そのかかるはずの時間よりも前の時点ですでに見えているということになるわけです。
ただこの場合の見え方は、やや不明瞭だとは思います。この場合、仮に見える時間が、視線を向けてから145ミリ秒くらいよりも前で見えているということになると、視覚野の途中、例えばV1~V3付近かそれよりも前ですでに見えていると考えるしかないかと思われるわけです。