視覚誘発電位から考える中心視野での視覚化

今までふれたように視覚誘発電位の測定などから、視覚情報が網膜から視覚野に達するまで、速くても30~40ミリ秒後で、明らかな初期視覚野V1での電位が約75~100ミリ秒後、V1~V3付近での電位が145ミリ秒後、そのあとで、文字では文字関連領域に約170ミリ秒後、顔では顔関連領域に約(170~)200ミリ秒後に電位が生じるという知見から考えられることとして、

視覚情報がある程度完成するのにはだいたい145~170ミリ秒くらいかかり、そのあとで前頭前野に情報が送られると考えると、記憶情報との照合がなされて知覚として完成するのには少なくともだいたい170ミリ秒程度、場合により200ミリ秒程度かかりそうに思われます。

でも、さきほどからのお話で、実際には主観的に見えた、それもはっきりと見えたと感じるのに、視線を向けてから170ミリ秒もかかっているようには思われず、100~145ミリ秒程度ですでに見えているような印象です。

もし100~145ミリ秒程度で見えているとしますと、その時点では、刺激はまだ視覚野V1~V3付近と考えられますが、この段階ですでに見えていると考えないとおかしいわけです。

では、この時点で見えているとすれば、それはどのような映像となるのでしょうか。記憶情報と照合がなされて完成する前の不明瞭な映像ということなのでしょうか。もしそうだとした場合、それは実際の文脈に沿った映像といえるのでしょうか。

ただもしこのときの映像というのが不明瞭なものだったとしても、ふだん見え方がやや不明瞭となることはよくあるわけですので(例えば動きが速いものを見たり、対象にピントが合っていなかったりした場合には不明瞭となるでしょう)、視覚野の途中の段階(V1~V3)だから不明瞭となっているのかどうかについては、わかりづらいように思います。

さらに時間分解能から考えますと、100ミリ秒後よりももっと速く見えているように感じられます(約80ミリ秒程度でも、見えていない状態があれば、視覚は一瞬不連続となると考えられるからです)。

また再度申しますが、もし170ミリ秒よりも前に見えているとすれば、記憶情報との照合がなされる前にすでに見えていることとなると思われ、一般にいわれているように、記憶情報との照合がなされてから知覚されるという考えとはちがっているように思います。

さらに、もし記憶情報との照合がなされる前に見えるとすれば、その映像というのはどのようなものなのか、文脈に則した映像なのかということも疑問ではあります。ただ145~170ミリ秒後くらいですと、高次の視覚野での処理は進んだ段階と考えられますので、映像としてある程度完成していることは考えられます。

ちなみに前に申しましたが、周辺視野では30~40ミリ秒程度で見えているということは考えられるように思いますが、中心視野で30~40ミリ秒後程度の時間では、明らかに必要な情報処理がなされる前の段階なので、その時点ではっきりと見えることは、理論的には考えにくいのです。

このように、いつ、どのように映像が見えるのかについては、いろいろと考えられ、また、疑問も生じます。