秋を迎え、儂と甚介は再び丹波に侵攻し、波多野一族の波多野秀親の拠る数掛山城を囲んでいた。此度こそ波多野氏を殲滅せんと、長慶様から援軍として池田長正、松山重治、石成友通、そして甚介の岳父の内藤国貞らの与力を得て、万全の態勢で丹波攻めに臨んでいた。

だがそんな折、またしても三好政勝が密かに挙兵し、城を囲んでいる儂らの背後から後巻きに襲い掛かった。

「兄者っ」

後方の突然の騒ぎに、儂と甚介は目を合わせた。はじめ、何が起こったのか理解できず、

「何事かぁっ」

二人して陣の後方に目をやった。

「敵襲っ」

後方にいる後詰の隊の方角から絶叫が起こり、そしてその絶叫は、すぐにこちらへ近づいてきた。

儂と甚介が率いる三好勢の本陣は、陣形を反転させる暇もなく混乱し、そして崩れた。実は崩れたのは儂らの本陣だけではなく、味方の各隊も同時に襲われ、混乱状態に陥っていた。

「者ども、まん丸になって防げ! まん丸になるのじゃ!」

甚介の大音声に、やがて〈方円の陣〉へと陣形を変えた儂らは、何とか後巻きの敵の攻撃に耐えていた。

敵の猛攻がひと息ついたところで、松山隊と石成隊は何とか態勢を立て直したものの、気が付けば池田隊は四散し、最初に襲われた後詰の内藤隊は壊滅状態となっていた。

そして内藤隊の状況を危ぶんでいたところへ、訃報が飛び込んできた。

「内藤国貞様、お討ち死っ」

「何ぃ。それはまことかぁ?」

嘘などつこうはずのない伝令の言葉を、甚介はすぐには信じようとはしなかった。そして、甚介の疑いが晴れる間もなく、次なる凶事が追い討ちをかけた。内藤国貞の居城である丹波八木城が攻められているというのである。

「甚介、ここは儂が殿軍(しんがり)をするゆえ、そなたは直ちに八木へ行けぇ」

「兄者、かたじけない。そうさせてもらうわ」

甚介は慌てて陣所を飛び出していった。

「急いでも、決して慌てるでないぞぉ!」

儂は甚介の背中に向かって叫んだ。

数掛山城から八木城までの(わず)か三里の道程を甚介の隊は急いだが、虚を突かれた八木城は既に落ち、一族の内藤顕勝ら多くの将兵が討ち取られてしまった。

「間に合わなんだかぁ」

進軍中、思わぬ敗報に接した甚介であったが、すぐに気を取り直して八木城に攻めかかった。

どういうわけか、三好政勝勢は呆気なく城を捨てて去っていき、結果、甚介は八木城を奪い返した。

幸いにして、国貞の嫡男千勝丸は、宿老の湯浅宗貞が園部城に匿ったため無事であった。

国貞の遺児である千勝丸はまだ幼少であったため、内藤家一族の話し合いの結果、甚介が内藤家の入り婿になることで内藤家を支えることになり、甚介は名を内藤宗勝と改めた。