大雪の成人の日に
二〇一三年の成人の日、東京は、まれにみる大雪だった。テレビは都会の、水分の多い雪の道を歩く振袖姿の女性を映していた。裾をあられもなく持ち上げて歩く女性や「足袋が濡れて寒い」とこぼしている女性たちを見ていたら、ふっと下駄を履いて雪道を歩いた昔を思い出した。
故郷長野の冬は、普段ゴム長靴で暮らしている。お正月に四つ違いの姉と、お揃いで下駄を買ってもらった。爪皮にうさぎの毛が付いたかわいい雪下駄だった。
雪の止んだよく晴れた日、その下駄を履いて二人で友だちの家に遊びに行った。
裸の黒い木々の枝に雪が積もり、青空に白と黒のコントラストが美しかった。地面の雪はきらきら光って楽しそうである。
久しぶりの青空が、そして、おろしたての下駄が、私にはうれしかった。
「ねえちゃんの下駄は、白いうさぎだね。あたしのは、桃色のうさぎだよ」
「うん、そうだね。ほら、滑って転ばないように、指に力を入れて歩くんだよ」
チェーンの跡がついた車の轍を歩いて行った。でも時折、通る車をよけてやわらかい雪のところを歩くことがあり、やがて下駄の歯に雪が詰まった。底が雪でデコボコしてくるので、転びそうになる。
「ねえちゃん待って、もう歩けないよ」
「そこの石のところで、下駄をトントンしてごらん」
下駄を打ちつけて雪を落とそうとする。歯にきっちりと踏み込まれた雪は固くなっていて、なかなか落ちない。
「とれないよ」
泣きべそをかいて言う。
「ほら、あたしの腕につかまって。もうちょっと、トン、トン、トン」
歯の形の長四角の雪がポトッと落ちた。
「取れた!」
ぽっと足が軽くなった。でも、片足だけが短くなった感じがする。
もう一方の足もトントンして、両足を軽くすると足の長さも揃い、元気になってまた歩きだした。
友だちの家に着いて炬燵に入ったら、湿った赤いビロードの足袋がほわっとあったかくなった。
お汁粉はおいしかったけれど、七並べはすぐ負けた。七歳の正月。もう六十年以上前の話である。
雪道を草履や下駄で歩くのはいつだって大変なのである。テレビの女性たちに同情する。転んで御振袖を汚してしまった人もいただろう。でも、それもいつかは笑える思い出になる。雪くらいなんじゃ。成人おめでとう。