双頭の鷲は啼いたか

ドアを開けると出かけたままの部屋は真っ暗で、今朝脱いだスリッパだけがタケルを迎えてくれた。その様子にほっとしたタケルは鞄をソファに放り出して倒れ込んだ。疲れた。もう何もしたくない。やおら立ち上がると風呂の自動スイッチを押してお湯が落ちる音を聞きながら、ネクタイをほどいた。

今頃になってまたあの頭痛がタケルを襲う。おもわず頭を抱え込んだ、もう嫌だ。この頭を外して放り投げたい衝動に駆られた。タケルは痩せて薄っぺらな体を温かいお湯の中に沈めた。

すると頭痛も和らいでいくような気がする。泡の中で一日のストレスをすべて洗い流すと、大きなため息をついた。何も考えずにタケルはいつもと同じクタクタのジャージとTシャツを身に着け、パイプベッドに横になり布団を被った。タケルの中のいろいろな出来事を飲み込んで、夜はまた明日の朝をはきだす。

その渦にまた、巻き込まれるだけだ。タケルはまた夢を見た。それはとても悲しい夢だった。思い出したくない過去のことだった。

タケルの唯一の彼女だった、同じ教育学部の薫。同級生だった。大学四回生の頃だろうか、この部屋に昼食を作りに来てくれた。で、二人で何かを食べたあと、急に別れを切り出される夢だった。

「いろいろありがとう。楽しかったわ。今日でお別れしましょう。実は私は東京へ帰るの。あちらで就職するわ」