六月二十一日木曜日 少女と憂鬱とフレミングの法則
「なんていうか、やっぱさ、興味をそそられちゃうんだよね」
腕組みをした野長瀬さんが、ふうっと息をつきながらつぶやく。わたしは、「え?」と言って、うつむきかけていた顔をあげた。
「ほら、彼女、あのとおり謎の人じゃん? 五月までは十日に一度くらいしか学校にきてなかったしさ。事実上は先輩だし、あたしらも、なんていうの、敬して遠ざけるって感じだったわけよ。実際、“近づくなオーラ”みたいなのも全身から出まくってるし」
「はあ……」
平静を装いながら、内心どきっとする。クラスに顔を出さなかった間も、ミュウ―天坂深雪(みゆき)が、立ち入り禁止になっている旧棟のヨウム室に足しげく通っていたことは、(たぶん)わたしだけが知っている秘密だ。
それにしても、近づくなオーラか。わたしが、初めてヨウム室を訪ねた(というより、勝手に押し入った)ときのミュウも、そんな感じだった。
でも、わたしは知っている。たしかにちょっとぶっきらぼうだったりするけれど、ミュウはとても優しいすてきな女の子だ。
「それがさ、彼女、六月からはけっこうまめに学校へくるようになったし、それにあわせるみたく、きみが彼女を訪ねてくるようになった。マジな話、それまでは、彼女がだれかと話をしてるとこなんか見たことなかったんだよね。それが、きみらときたら、なんでもないようにフツーに会話してるじゃん。そりゃあもう、クラス中びっくりだよ。いったい何者なんだ、あの子はってね」
ははは……まあ、そうだろうな、と思う。
「というわけで、目下のところきみらは、学年中、というよりも美咲杜(みさもり)で、一番ホットな話題を集めてる注目のコンビなのだよね」
注目のコンビって……売り出し中のお笑い芸人ですか、わたしたちは。
全校で話題というのは、いくらなんでも大げさだと思う。
でも、この教室にくるたび、好奇のまなざしの一斉射撃を浴びていることくらいは、超鈍感娘のわたしにだってわかっていた。
今だって(それぞれのおしゃべりに興じているように見えるけれど)、たぶん、教室にいる生徒全員の関心が、入り口に突っ立ったわたしに向かっている。
一カ月前のわたしだったら、こんな状況に耐えることなんて、ぜったいにできなかっただろう。目立たないこと、すべてにおいて人並みであること。それを、生まれながらの属性にしてきた女の子がわたし、本多小羽子(さわこ)だ。