六月二十二日 金曜日
二〇一二年六月二十二日、金曜日。
満田穂波にとって、退屈な一週間の締めくくりとなるはずの退屈な一日は、こうして、本人が予期しないかたちで、まったくべつの物語に書き換えられることとなった。
もし悪魔が、この光景を見ていたら、穂波にこうささやいて笑ったかもしれない。
喜びなさい。扉は開いた。そう、わたしは鏡の国の使者。あなたの願いをかなえにきてあげたのだよと。
六月二十一日木曜日
少女と憂鬱とフレミングの法則
梅雨どきのジメッとしたうっとうしさは、ちょっと苦手だ。
夏の通り雨とか夕立とかは、そんなにきらいじゃない。シャワーを全開にしたような雨がひとしきり降りそそいだあと、うそみたいに晴れあがった空から、きれいな光があふれてくる。
その光の中で、洗いたての街や木々がきらきらと輝く。その瞬間、小さな水たまりのまぶしさにまで、心が浮き立ってしまう。梅雨どきの雨は、そんな気持ちのいい雨とはべつものだ。
どんより垂れこめた灰色の雲から、しとしとと切れ目なく降り続く雨。晴れ間を見ない日が続くと、心の太陽成分まで欠乏する。
そのぶん、ふさぎの虫だけが日に日に大きく育っていく。べったりと肌に張りつくような生ぬるい湿気も、やりきれない気分を倍加させた。
雨は天からの恵み、大事なのは気のもちよう―そう思おうとしても、わたしみたく、環境とか雰囲気とかにすぐ染まってしまう人間には、その手の心の切り替えが一番難しいのだ。
電車に乗っても、学校に行っても、逃げこむ場所がない。いたるところにジメジメした陰鬱(いんうつ)な空気がこもっていて、水槽に閉じこめられた酸欠の金魚みたいに息苦しくなってくる。
早くこの季節が終わってくれるよう、雨空を見あげて祈るばかりだった。今日何度目かのため息をついたあとで、ふっと思う。もしかしたら、今ついたため息が空気に溶け、また雨になって降ってくるのかもしれないな……。
そんなわたしの鬱々とした気分に、いっそう輪をかけてくれる女の子がいた。
今日でちょうど一週間、もういいかげん、そろそろ……。1-Bの教室に近づきながら、淡い期待をいだきつつも、すでに
「今日もダメかな……」
と、あきらめモードのスイッチに手をかけているわたしがいた。こういう、ネガティブというか、うしろ向きな思考がいけないんだよね、とは思うのだけど、十六年もこの性格で生きてしまうと、そうそう簡単に自己改革はできない。
開いていた前方の扉から、そっと中をのぞく。休み時間のざわめきにつつまれた教室。彼女の机には……やっぱりだれもいない。わたしは、本日最大級のため息を周囲の空気に供給した。
そんなわたしに声をかけてきたのは、1-Bのクラス委員、野長瀬弥子(のながせやこ)さんだ。
「天坂(てんさか)さん? 残念。彼女、今日も休みだよ」
「え……あ、はい」