ツー・サンズは、幼い頃から、利発さを部族の誰からも認められていた。彼女は、しなやかな黒髪と、滑らかな褐色の肌を持ち、まっすぐな瞳には強い意志と聡明さを携えていた。

言葉を喋るのも、絵文字を解するのも、数を数えるのも、子どもたちの中では、ずば抜けて早かった。

部族の誰もが驚嘆したのは、彼女が15歳の頃、族長である父と母の大喧嘩を諌(いさ)めたことである。父は「馬を従える男」、ビッグ・ホース。母は「雲を掴む女」、ジェントリー・クラウド。

ホースは非常に好戦的で、白人たちに戦いを挑みたがる癖があった。クラウドは、安定と平穏と部族の平和を望み、夫婦には常に諍(いさか)いが絶えなかった。

ある良く晴れた冬の日の朝、またしても白人たちが、インディアンのすみかを襲う出来事があった。怒り狂うホースと、それを宥めるクラウド。そのうち、クラウドの方が激昂し、そんなに戦(いくさ)をしたいのならば、家を出て行くと泣き叫んだ。

その諍いを黙って見ていたツー・サンズは、つと立ち上がるやいなや、両親の大事にしていた壺を、いきなり焚火の中に放り込んだ。驚く両親をしり目に、ツー・サンズは語り始めた。

「父さん、怒るのはもっともです。今まで何度、白人たちの傍若無人な暴力に、私たちは耐えてきたことでしょう。私に弓と槍と銃を扱う力があれば、今でもあなたのために戦います。でも父さん、どうか冷静に考えて下さいませ。兵、銃、馬、全て白人の方が多いのは事実です。

今、怒りに任せて兵を挙げ、戦って勝てますか。時を待ち、兵や武器を増やし、敵の油断を待ち、隙を見せた時にこそ、全兵力を持って討つべきです。それまでは我慢です。忍耐です。彼らに甘い顔を見せ、我々が愚かな者どもと思わせましょう」