城下町の入り口には春日神社を配し、下城門で仕切り、その先に、朝倉義景の従兄弟で後に義景を裏切って織田信長の家臣となった、朝倉景鏡(かげあきら)の邸があった。

そこからさらに一町ほど遡った谷川の左手に義景の邸は有った、谷川の右手には家臣団の邸が並び、五町ほど登ったところで上城門によって仕切られていた。義景の邸は、広大な庭園と庭園の中に湯殿が造られており、義景は女中を侍らせ湯浴びをしながら庭園を眺め、酒色に溺れていた。屋敷から左手四町ほどの山上に要害の城郭があり、その間にもいくつかの出城を配しており、いざという時には何時でも山上の城に籠城できるように成っていた。

光秀は妻子を足羽川沿いの茶店で待たせ、下城門の門番を尋ね、「美濃の浪人明智十兵衛と申す、朝倉家にとって何よりの土産話を持って参った、お屋形様に御取次、願いたい」というと門番は「当方では人手は間に合って居る、仕官の願いなら他家に行け」

「仕官の頼みではない、拙者は京の都より参ったばかりだ。京の情報をお知らせ致すと伝えてもらいたい」

門番は「帰れ! 帰れ!」と、取り合わない、光秀は持参の種子島を布袋から取り出し、火縄に火をつけ、空砲を天に向かって放った。「ドーン」と轟音が轟き門番は後ろ向きにひっくり返った。その音に驚き数人の家臣たちが駆けつけて、光秀を囲み取り押さえた。

その時「何の騒ぎだ!」一人の狩衣に烏帽子を被った屈強そうな武士が現れた。

「これは景鏡様、この浪人者が物騒な物を持ち込みまして、ただいま取り押さえたところでございます」と門番は言った。

光秀は景鏡に向かって、「これは、これから天下に変革をもたらす武器でございます、上方では天下を望む者は競ってこの種子島を求めております、朝倉様もこれから京を目指して天下に立つには、この鉄砲がお役に立つと思われますが」

景鏡は、「見ての通り、当家はこの一乗谷で平穏に暮らしておる、これ以上何の望むベき事もない、また我が殿に天下など望むべき気概もないわ、気の毒だが当家ではそのような物は必要ない、聞けば美濃の明智家の流れの者と聞いたが、また何か縁が有ったら訪ねてこられよ」

光秀は、「分かりました。朝倉様の繁栄を心よりお祈りいたします」と早々に一乗谷を辞した。