作戦開始
転院してすぐ、車椅子の私は、自分で行動することはすべて介助つきだった。ベッドから車椅子への移動、トイレまでの移動、トイレで車椅子から便座に座ること、終わったらナースコールでまた介助をお願いする。リハビリ室へも療法士が病室まで送り迎えをしてくれる。
大変ありがたいことだった。だが、私は、こうも考えるようになった。
『ゲームの主人公のように、一つ一つアイテムや武器や権利を得なければ』
車椅子の操作は、左手でも上手くできる自信があった。
もちろん左手だけで車椅子を操作すると右側に逸れていくので、左足も地面につけながら調整していたが、スタッフの方々にご迷惑をかけないためにも、まずは、
『車椅子の自立を勝ち取ろう!』
と考えた。
そこから私は、【車椅子の運転テクニックアピール】を始めた。
エレベーター内でも、療法士の見守りの中、車椅子を直進させ旋回しバックでピタッと壁際に寄せ、リハビリ室でも、左手で車椅子を自由自在にコントロールする所を見せつけるようにした。
数日後、複数のスタッフや看護師から、
「宮武さん、車椅子の操作上手いですね」
と言われたので、
「ありがとうございます。まあ、車の運転と原理は変わらないので車幅の感覚さえ掴めたら、こんなものですかね」
と、涼しげに答えた。
2016年1月7日、早くも終日院内車椅子駆動自立を告げられた。
私という主人公は、ゲームで例えるなら、うまく一つ権利を勝ち取った。
しかし、これは条件付きで、移動してよいのは病室からリハビリ室まで、病室から食事ホールまでだった。
それでも、これは大きな一歩だった。そして、嬉しいことに、着替えとトイレの自立も許可をいただいた。転院して、不謹慎ながらゲームの主人公という立ち位置に自分自身を置くことで、病気や麻痺になったことへ挑戦することに意識を向けた結果が、短期間で成果として出せたことは、今後の希望につながった。ここから次々に、消灯後のベッドの中で作戦を立て始めた。
ただ、リハビリに関しては何の知識もないので、それぞれの担当療法士の教えにしっかりついていこうと思った。
足のリハビリは順調に進んでいるのを感じていた。
平行棒の中で少しずつ歩くことができ始めた私は、廊下の壁に設置されている手摺を使った歩行練習を開始した。開始時期は1月の10日だった。まだ、自力歩行をしているという感覚には遠いが、平行棒という安心空間から脱出し、療法士のサポートで、廊下を歩くまで確実に回復していたことには、感慨深いものがあった。
壁沿いの歩行練習では、普通に手摺を持ってゆっくり歩くことから始まり、スクワット的な動きも取り入れ、筋力強化を図っていった。
そして、いよいよ1月11日に杖歩行の練習が始まった。