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五 ほととぎす

船橋が近づき、お城が見えて来ると、顔を見られるのが嫌で、用意して来た笠をかぶった。

聡太朗はふと後ろに妹の姿がないのに気が付いて、振り返った。ひっそりと俯いて、とぼとぼと遥か後ろを歩いてくる姿は、日頃の百合からは考えられないほど悲しそうで、いたいけであった。

何がなし可哀想になり、そっと戻って百合の肩に手を置き、優しく話しかけた。

「百合、いや唯ノ介、気持ちは分かるがしっかりせねばだめだ。ここで泣き出しでもしたら、皆にお前だとばれてしまう。そうなったら父上の努力も水の泡だ。姉上の気持ちも無駄になってしまうぞ。堪えてしっかり歩け」

百合はうなずくと、口を一文字に結んで、顔を上げた。しんとした気持ちのまま、黙って黙々と歩き続ける百合を、行き交う町の人は、誰も百合の男装の姿だとは思いもしなかった。それだけ日頃とはあまりにもかけ離れた様子であったのだ。

二人は程なく家に帰り着いた。家の中はしんとしている。

「ただいま戻りました」

聡太朗が玄関で声を上げると、家の中から母が出てきて、

「お帰りなさい。早かったですね。今すすぎの水を持ってきます」

とこれも青ざめた顔で、でも優しく出迎えた。

「まあ百合、よう似合って」

「母上、姉上はいかがなのですか」

百合は気がかりを一気に口にした。我慢に我慢を重ねて来たので、もう待てなかったのだ。

「今父上が診ています。もう落ち着いていますので、大丈夫ですよ」

「会いに行ってよいですか」

「いいえ、今日はだめです。ゆっくり休ませてあげないといけませんから」

「そうですか」

「とにかく早く上がりなさい。疲れたでしょう」

母は女中の佐枝が持って来たすすぎの水で、百合が足を洗うのを手伝った。家の中は昨日百合たちが出かけた時と少しも変わっていないはずなのに、何だかいつもとは全く違うように見えた。

何より姉の優しい笑顔がない。今まで一度も経験したことのない暗い影が、家中を覆っているような気がした。母が奥の方へ行ってしまうと、百合はそっと姉の寝ている離れの部屋に近づき、廊下から覗いた。

父が姉の脈をとっているところだった。姉は白い顔をして目を閉じていた。ふと百合に気が付いた父が、立ち上がって部屋から出て来た。

「百合、無事に帰り着いたか。この部屋には近付いてはならん。お前は小さい故、移るといかんからな」

「姉上は大丈夫なのですか」

「うむ、今はもう落ち着いている。ここは大丈夫だから、あちらに行って母上と一緒にいてさしあげてくれ。母上は心の臓が弱いし、かなり動揺しておるようだから、お前がいてくれると助かる」

「はい、父上」