夏の暑さが本格化する頃、綾菜はまた激しく喀血した。それまで少しずつでも良くなっていると信じていた百合には、大変な衝撃だった。それは小幡家の全ての人々にとって、辛く悲しい夏だった。百合はせめてもの涼をと風鈴を買ってきて、綾菜の病室になっている離れの縁側に吊るした。だがその年の暑さは殊の外厳しく、風鈴もごくたまにちりんと申しわけのようになるだけであった。綾菜の病との闘いはその頃から殆ど勝ち目のな…
[連載]遥かなる花
-
小説『遥かなる花』【第13回】佐々木 祐子
「お願いだ、会わせてくれ!」姉にはもう時間がないと知り…
-
小説『遥かなる花』【第12回】佐々木 祐子
「学問は本当に面白いものなのですね」久しぶりの姉の笑顔に…
-
小説『遥かなる花』【第11回】佐々木 祐子
病気を理由に婚約解消を申し入れた綾菜。健一郎の答えは…
-
小説『遥かなる花』【第10回】佐々木 祐子
「姉上は、お元気になられます」と言い聞かせるように言った。
-
小説『遥かなる花』【第9回】佐々木 祐子
「母上は決して病気にならないで下さい。お願いです」
-
小説『遥かなる花』【第8回】佐々木 祐子
「姉上が喀血して倒れました。早くお帰り下さい」
-
小説『遥かなる花』【第7回】佐々木 祐子
ほっとすると同時に…「父親」の気持ちとは複雑なものなのだ
-
小説『遥かなる花』【第6回】佐々木 祐子
鶯が盛んに鳴いている…田んぼには青々と稲が育っていた
-
小説『遥かなる花』【第5回】佐々木 祐子
百合、あなたはれっきとした女の子なのですからね。
-
小説『遥かなる花』【第4回】佐々木 祐子
父の質問「それほど学問がしたいか」…百合は迷いなく答えた
-
小説『遥かなる花』【第3回】佐々木 祐子
「百合、ちょっと話がある、ここに来なさい」聡順が呼ぶ。
-
小説『遥かなる花』【第2回】佐々木 祐子
「きっとあの子は私に似たのでございましょう」母の深雪は…
-
小説『遥かなる花』【新連載】佐々木 祐子
小幡家の末娘である百合は、たいそう男勝りな性格で…