五 ほととぎす

二人が道のりの半ばまで来た時、向こうから早馬が駆けてくるのが見えた。どんどんこちらへ近付いて来る。なんと乗っているのは兄の聡太朗であった。どうどうと馬を止め、聡太朗はひらりと馬から降りた。

「どうした、急病人か」

父はもう馬の手綱を受け取りながら急いで訊ねる。

「姉上が喀血して倒れました。早くお帰り下さい」

「今誰が見ている」

「代脈の加藤先生が見て下さっています。でも、早く父上を呼んできてくれとおっしゃって……」

「分かった。百合、いや唯ノ介を頼む」

それだけ言い残すと、聡順はひらりと馬にまたがり、あっという間に走り去って行った。聡太朗が百合を振り向くと、百合は道端にじっとたたずんでいた。真っ青になって、フルフルと震えている。

「兄上、姉上の病は重いのですか」

「うむ、喀血したのだから、軽い風邪などではまずないだろう。だが、私はすぐに父上を迎えに来てしまったので、詳しいことは分からぬ。とにかく急いで帰ろう」

そう言うと聡太朗は本当に凄い勢いで歩き出した。百合は小走りにならなくては付いていけない。日頃から、歩いているより走っている方が多いような子であったから、普段なら何ということもないのに、今は足が震えて心もとなく、なんだか息が切れた。

あのようにおきれいで優しい姉上なのに、こんなことがあってよいものだろうか。ついこの間も、百合のために父へ進言してくれた姉であった。涙が出そうになるのをこらえて、百合はひたすら家への道を急いだ。