昭和四十四年東京地裁八王子支部判決と医師法第21条を考える

被告人の主張に対する当裁判所の判断

被告人は判示第一の(1)の事実につき捜査段階で大略次のごとく主張している。

即ち

「昭和四十一年一月二十五日午後5時半ごろA女がいないという報告をうけた。

同女は行方不明になる前は別に異状はなく、ただ4〜5日前に軽い脳出血の症状をみせたことがあり注意していた。前日に尿毒症のような症状をみせたので脳症を起こし突発的に発狂することもあり得るので、それでとび出したとも考えてみたが原因は判らなかった。

同月二十七日午前10時ごろ同女が裏山の沢の中で死んでいたとの報告をうけた。死体はレントゲン室で検案した。まず外傷の有無を調べ、骨折、裂創、切創のないことを確認し、ついで瞳孔が散大していることを確認し、自他殺を考え、首のまわりも調べたが異状はなかった。

人工呼吸を一回して水を飲んでいるかどうか調べたが異状なく、ゴム管を使い胃液を出したが異状はなかった。以上の検案結果から私は死因は尿毒症による心臓麻痺を起こしたものと判断した。例え病院外で死亡した者でも前に診察して一定の症状があったので、これが原因で病死したもので変死や異常死(原文は異常死とあるが誤記であろう)ではないと認め、警察には届出なかった」(以上、昭和四十一年四月二十日付司法警察員に対する供述調書)

というのであって、当公判廷においても死体検案の結果、死因につき特段の異状は認めなかったから届出義務はない旨の供述をしている。