母は、いつもの優しい笑顔で、

「父上が話されたのですか」

と眩しい目をしながら言う。

「はい、百合は思いもかけませんでした。母上は私が男の子として育つことがお嫌ではないのですか」

「いいえ、少しも。その方が百合には合っているように思えましたので……」

「私はとても嬉しいのです。勉学も剣もずっとやりたかったのですから。いつも兄上が羨ましくてたまりませんでした」

「それなら良いのです。でもね、百合、これだけは言っておきますが、あなたはれっきとした女の子なのですから、いつか気持ちが変わる時が来るやもしれません。それは決して恥ずかしいことでも裏切りでもないのですよ。女の子は年と共に心も体も変わっていくものですからね。でもね、それまでに身に付けた学問や剣の技術、礼儀などは、もし女の子に戻ったとしても決して無駄にはなりません。素晴らしいものです。ですから父上などに遠慮することなく、さっさと女の子に戻って構わないのですよ」

そう言って深雪はくすっと笑った。

「今はまだ百合には分からないかもしれませんね。それで良いのです。でも心のどこか片隅に、今の母の言葉をしまっておいて下さいね。いつか思い出す時が来るかもしれませんから」

「はい、母上」

「母もね、子供の頃は百合と同じで、野山を駆け回ったり学問したりしたかったのですよ。体が弱かったので、出来ませんでしたが。ですから、百合の気持ちがよく分かるのです。でも今母として願うのは、ただ百合に幸せな人生を送って欲しいということだけなのです」

そう言って母は百合を抱きしめた。百合は母に抱きつきながら、私はなんと幸せ者なのだろうと心の底から思った。