お客様から学ぶこと

車椅子の男性が、横断歩道を渡りながら、手を挙げられる。50半ばくらいであろうか?

何度も手を挙げ、こちらを見ておられた。

ご乗車なさりたいのだろう。

道路交通法では、交差点、横断歩道5メートルでの駐停車は禁止されている。

(大概のお客様は横断歩道・交差点内で手を挙げられるが、ガードレールがあるので仕方なく停めることも多い)

お客様の車椅子は電動車椅子。

瞬時に確認する。

周りの状況を確認し、ウィンカー、ハザードを出し、軽く手を挙げ了承の合図をする。お客様の横を通過し 横断歩道の先に停車する。

電動車椅子だと、多少の移動は負荷が軽いと思ったのだ。(自走式の方だとわずかな段差もあり、移動も大変である)

もちろん、お迎えにあがるつもりだ。

私は車を停車し、即座にトランクを開け、お客様にお声掛けした。

「申しわけございません。交差点及び、横断歩道では停車禁止でして。また、他の車が多く停められませんでした。あちらまでお願いできますか?」

「あぁ、いいんですよ。こちらこそ、あんなところですみません。でも、停まってくださって良かった」

そう言いながら車まで来ると、お客様は自身でゆっくり立ち上がり、車椅子を畳んだ。

手伝おうとする私を制し、車椅子を持ち上げ、トランクに。電動車椅子なので重いはずである。

歩行はゆっくり。浮腫もあり皮膚変色もある。

おそらく痛みもあるのだろう。

「ゆっくりで構いませんから、お足元にお気をつけてご乗車くださいませ」

お客様はご自身で、ご自分の足を両手で持ち上げながらご乗車された。

「ドアをお閉めしても宜しいですか? お気をつけくださいませ」

確認しながらドアを閉め、お客様は座席へ乗り込んだ。

通常どおり、行き先・行き方を伺う。

受け答えはしっかりされており、ご自宅への説明もわかりやすい。

「それでは出発、致しますね」

とお声掛けする。

お子様やお年寄り、障害のある方などがご乗車されたときにはなるべく、お声掛けしながら運転している。

信号待ちなどから出発するとき、右左折で曲がるときなどは、お声掛けすることで車内での事故防止になるからである。

「あー、停まってくれて良かった。素通りするタクシーもいるからさ。バスだとね、周りの乗客が嫌がるんだよね。車椅子が乗ると。今日は街中が混んでいるでしょ? きっとバスも混んでいるんだ。だから、タクシーにしたよ」

「えー! 嫌がるって、どうしてですか? ご乗車に時間がかかるからですか?」

「そうだね。バスの運転士だって嫌な顔する人もいる。乗客も舌打ちしたり、なかには文句を言う人もいますよ。街中を走行していても、あからさまに通行の邪魔をしてくる歩行者もいるんだ。悲しいけどさ、それをいちいち気にしていたら、自分たちは生活していけないんだ。だから気にしないようにしている」

びっくりした。

障害のある方に対して、そんなことをする人がいることに。