雨音のワルツ

朝イチで、無線が鳴る。

無線は正直、「ドキッ!」とする音だ。

無線が鳴ると、普段はナビで地図を表示しているiPadに情報がくる。

お客様のお名前、お迎え先住所、その他の情報だ。

そして、いま自分がいる場所から、お客様のお迎え場所まで、ナビゲートしてくれる。

無線に慣れない私としては、気持ち的に正直、焦ってしまう。

どんなお客様か? 行き先はどちらか?

お待たせしないように早めに伺いたい、などなど……。

もちろん、ドライバーとして焦りは禁物だ。

お客様宅に到着。

車外に出て待機。雨が降っているので傘を差した。

玄関先からお客様が首を出される。

「ちょっと待ってくださいね」

「おはようございます。○○交通から参りました。ゆっくりで構いませんよ」

すると、お客様はドアを閉め、一旦戻られる。

ご年配の方なので、ご自宅の門から最短でご乗車いただけるように、車を少し下げた。

5分ほどでお客様が再び、お見えになった。

「ごめんなさいね。お待たせして」

手にはリュックやら財布やら、いろいろお持ちになられている。

「慌てなくて大丈夫ですよ」

玄関先は5段ほどの階段になっておられる。

「失礼しますね」

と申し上げながら門を開け、近くまで伺う。

「あ、杖を忘れたわ」

「よろしければ、おカバンを私がお持ちしますよ」

「ありがとう、助かるわ」