緊張の糸がプツッと切れたみたいに、彩さんは急にリラックスして、くつろぎ始めた。

「きみの気持ちはわかるけど。今日、僕は遊びに来たわけじゃないんだ。お母さんが入院してるっていうのに、遊んでいていいのかな?」

「何、言ってんの。私だっていろいろやって疲れたんだから。息抜きぐらいさせてよ! それくらいわかるでしょ!」

そんな言い争いをしている間に、いつの間にか雨が降り出していた。弱い雨だったが、大塚家の未来を暗示しているかのようで、なんか嫌な感じだった。庭の草木を見ると、部屋の明かりを微かに受けて、うっすらと姿を濡らしていた。

なぜか僕は、無花果いちじく枇杷びわの木を見るのが怖かった。

「彩さん、なんか雨だよ。バイク無理だよ」

窓の外を見ながら彩さんは反論した。

「でもたいした雨じゃないよ! バイク、乗せてよ! 乗せなければ、口きかないからね」

「また、だだこねる。小さい子と同じだね」