家庭教師

(ごう)を煮やしたのか、彩さんは後ろから僕を強く抱き締めてきた。

「どうしたの?」

「だって寝られないんだもん……」

彩さんは鼻声でささやいた。僕は(さと)す気力をなくしていた。

「んじゃ、どうすればいいの?」

「優しく抱いてくれたら、寝れるかも」

僕はいつしか抵抗する意思をなくしていた。仕方なく言われるままに彼女を優しく抱いてあげた。

「うーん、幸せ。これなら寝れそう。もっと強く抱いてくれたらいいな」

僕は、躊躇(ためら)いながらも彼女を抱き続けた。

「ねえ、キスしてくれない?」

「それは駄目だよ。僕は、君とこの家を守るために泊まってるんだから」

そう言っている間に彩さんは、いきなり僕にキスしてきた。舌まで入れてきた。一瞬のできごとで、僕にはどうすることもできなかった。

「駄目だよ、こんなことしたら!約束が違うじゃないか」

「こんなときに、そんな固いこと言わないの! もうこんなチャンスは二度とないんだから。ウチら、もうすぐこの家を出るかもしれないし……」

「え?どういう意味?」

「そのうちわかるよ。親父の転勤もあるし」

「それじゃ、引越しするの?」

「まあね。外国に行くかもしれないし。まだ決まったわけじゃないけど」

「そうなんだ。いろいろ大変だね。お母さんの手術もあるし」

風が収まってきたのか、雨戸を叩く音が小さくなった。

「だから、いまのこの時間を大切にしたいのに、わかってないんだから!」

「急にそんなこと言われても。なんか混乱するよ。どうしていいかわかんない」

「ねえ、ちゃんとキスして! いましかないんだよ、時間が……」

「え? 何でキスが関係あるの? まずいんじゃないの。こんなことしてたら」

「大丈夫。責任はウチが取るから」

そう言いながら、彩さんは僕にまたキスしてきた。舌を絡ませてきた。僕も抗いきれず彼女の行為に従った。彩さんはトレーナーを着ていたが、下着は着けてなかった。