8 幾千本の桜散る散る
山桜もソメイヨシノも一気に咲き、霞か雲かと目を疑うような桜色に世の中が染まりました。そして、今、降りしきる花びら。源氏物語の中で、「散る桜」と言えばこの場面が思い出されます。
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(夕霧の)ものきよげなるうちとけ姿に花の雪のやうに降りかかれば、うち見上げて、しをれたる枝すこし押し折りて、御階の中のしなのほどにゐたまひぬ。
督の君(柏木)続きて、
「花、乱りがはしく散るめりや。桜は避きてこそ」
などのたまひつつ、宮(女三の宮)の御前のかたを後目に見れば、例のことにをさまらぬけはひどもして、いろいろこぼれ出でたる御簾のつま、透影など、春の手向けの幣袋にやとおぼゆ。
(若菜上の巻)
寝殿の階段に座る夕霧と柏木の上に降りしきる桜の花。源氏の邸宅の庭に若い貴公子たちが集まって蹴鞠をした折のことです。
競技に疲れた二人は、一休みしようと、きざはしに腰かけたのです。たまたまその時に女三の宮の部屋から猫が走り出て御簾がもちあがるという事件が起こりました。
そして、柏木は、桜吹雪のむこうに女三の宮の姿を見てしまうのです。
この垣間見が柏木の運命を狂わせました。乱れ散る桜は狂気をはらんでいるようにも思えます。