ただ身体には縄で拘束したような赤痣(あかあざ)が見えた。二つの乳房にも数本の痣が残っていた。満月の黄金色の光が巫女の上半身を包んだ。赤痣の痕(あと)からは、わずかな黒い煙が立ち昇っては消えていく。

おそらく穢れが浄化されていった。長い年月をかけて少しずつ痣も薄れていくのだろう。今は、廃神社同様になっている神社であるが、それなりに繁盛している。表の神社では叶えてくれない願いを、聞き入れてくれる神社の巫女としてその役割をになっているのが闇の巫女だ。

闇の巫女になって、もうどれほどの年月が過ぎたのだろう。それも忘れていた。

人の世では、鎌倉時代と呼ばれている。ある時、一人の中年男が毎晩神社に参拝に来ていた。『この男何をお願いに来ている? 死人でもなく……何か強大な力に守られている気がする? 何者?』


「そこの人? 何をお願いに来ている?」

男は呼ばれた方向に向き直すと、平身低頭で、

「私の娘を助けて欲しい……代償として命をささげてもいい」

一方闇の巫女は、思わぬ返答に驚きながらも、

「助ける内容にもよります……」
「魔界のものに憑りつかれたようだ……私は娘を救わなければならない」
「あなたは、強大な力に守られている……その力が強大であればこそ逆に、身内を不幸にすることもある。心当たりがあるのではないか?……」
「私の娘、桔梗(ききょう)は、私が所用で京都に行っている間に魔界のものに襲われ命を奪われた。その時を境に、私は生きる屍(しかばね)となった」

と悔しさを顔に滲ませていた。