メガネっ子を通した美依。恋愛などとは程遠い生活をしていた。

美依(みよ)はメガネっ子だった。幼い頃の検診で遠視と言われメガネを掛けている。その頃のことはあまり覚えていない。三歳にならない美依がおとなしく掛けているわけはない。よく怒られて泣いていた。やがて観念した美依は、いい子になってメガネっ子として頑張ることになる。

幼、小、中とメガネっ子を通した美依は、恋愛などとは程遠い生活をしていた。父や母に似たのか勉強はできないが、運動神経はよく、いじめられることも無く過ごしてきた。高校に入学すると、袴姿にあこがれ弓道部に入部した。同級生の龍村愛生(あいり)と仲良くなり部活以外でもよく遊んでいた。

高三の夏休みに友人の池神紗有里(さゆり)と愛生の家に泊まりに行ったことがある。愛生の実家は龍神湖にある龍神稲荷神社。そこで美依は愛生の従兄の龍村儀人(よしと)と出会った。美依たちを駅まで送るために呼んだらしい。考古学を専攻している大学生だ。彼もまた、近視のぶ厚いメガネを掛けていた。いかにも、スポーツ音痴のオタクを連想させた。片道十分足らずの道のりで、彼はひたすら龍神稲荷神社の成り立ちを語った。

翌日、美依のもとに愛生から電話がかかってきた。「儀人に、美依の電話番号を教えてもいい? 美依と連絡が取りたいって」。美依は断った。ただもう一度、龍神湖でならば会ってもいいと伝えてもらった。