「伝説の巫女が……」

湧水がちょろちょろと流れ始め、湖底の祠に流れて行く。一時もたたないうちに、祠の屋根まで届いていた。湖畔には白狐のゆきが、ただ一点を見つめて微動だにしない。湧水は勢いをまして、ドクドクと脈打つように流れ出ている。

数週間後、湖は元の姿を取り戻した。丘の上の祠では巫女と白狐が、湖の龍神様の祠があった場所を見つめている。生とゆきである。巫女の雪は人柱となり、その御霊は巫女となった生に引き継がれた。白狐のゆきはその後、十余年生きて雪のもとに旅立った。その御霊は、生と村人の手によって祀られ眷属（けんぞく）となった。

儀人は、「君の遠い祖先は、雪さんなのかも知れないね」と言った。美依の胸の鼓動は激しくなった。「伝説の巫女が……」。女の美依が初めて恋したのは、儀人ではなく、雪だった。「君は、『水の気と風の気』を持っているね」と儀人が言った。

美依はなんだか嬉しくなり、儀人に向けて初めて微笑んだ。龍神湖から一陣の風が吹き、湖面を揺らした。山の上の神社からは、誰が鳴らしているのか、「シャンシャン」と鈴の音が聞こえている。

人の世の運命は、いくつかの偶然が重なり必然となる。数年後、二人は結婚して、一人娘の『依姫』が誕生した。彼女こそ後に史上最強の巫女と呼ばれ、天界と魔界と地上界にその名を知らしめることになる。その力はその子供『依生』、その子供『天月』へと受け継がれていくことになる。