その後、平成十一年二月八日にAは甲病院に入院し、術前検査では甲状腺機能、胸部レントゲン、心電図に特に異常は見られず、二月十日、主治医である整形外科D医師の執刀により左中指滑膜切除手術を受け、手術は無事終了し、術後の経過は良好であった。
ところが、翌日(平成十一年二月十一日)午前8時30分頃から、D医師の指示により、Aに対し、点滴器具を使用して抗生剤を静脈注射した後、患者に刺した留置針の周辺で血液が凝固するのを防止するため、引き続き血液凝固防止剤であるヘパリンナトリウム生理食塩水(ヘパ生)を点滴器具に注入して管内に滞留させ、注入口をロックする措置(ヘパロック)を行うに際し、F看護師は処置室において、Aに対して使用するヘパリンナトリウム生理食塩水と、他の入院患者に対して使用する消毒液ヒビテングルコネート液(ヒビグル)を取り違えて準備し、Aに対し点滴器具を使用して抗生剤の静脈注射を開始するとともに、消毒液ヒビテングルコネート液入りの注射器をAの床頭台の上に置き、それから他の患者の世話をするためその場を離れた。
その後、同日午前9時頃、Aのナースコールに応じて赴いたG看護師が、抗生剤の点滴終了後、Aの床頭台に置かれていた消毒液ヒビテングルコネート液入りの注射器をヘパリンナトリウム生理食塩水入りの注射器であると思い込み、これをAの右腕に取り付けられた点滴器具に注入してヘパロックをしたため、Aの容態が急変し、その連絡を受けた当直のE医師の指示により同日午前9時15分頃、血管確保のための維持液の点滴が開始されたが、維持液に先立ち点滴器具内に滞留していた消毒液ヒビテングルコネート液を全量Aの体内に注入させることになった。
主治医D医師も連絡を受けて駆け付け、心臓マッサージなどを行ったが、平成十一年二月十一日午前10時44分頃、Aの死亡を確認した。Aの死因は、消毒液ヒビテングルコネート液の誤投与に基づく急性肺塞栓症による右室不全である。