【前回の記事を読む】窓際に立つ女性は、気怠げに左手だけでブラウスのボタンを上から外していく

Chapter1 WINDOW

残念なことに窓枠は腰から上に在り、その下半身は見えない。恭平は生唾を飲み、瞬(まばた)きも忘れて目を凝らして見守る。

一連の動きが自身のせいで中断されることを恐れ、壁に身を貼り付け、それでも首から先だけは懸命に突き出した恭平の目は、痛い程に血走っている。

冷静に考えれば、あの五階建てのビルに隣接するどのビルにも窓が無い。

つまり、先方からこちらを見れば、全くの暗闇だ。だから彼女は何の警戒心もなく、堂々と裸になっている訳だ。そう考え少し落ち着きを取り戻した恭平は、より鮮明に裸の彼女を見ようと目を細め、さらに身を乗り出した。

口惜しいことに恭平は軽い近視で、この距離からでは千載一遇の真夏の夜のショーが、鮮明には見えない。それに彼女は窓際に立ち蛍光灯を背にしており、折角の裸体も逆光のせいで殆どシルエットとしてしか見えない。

彼女は両腕を肩の辺りまで上げ軽く背伸びをすると、不意に背を向け下着を拾い集め、視界から消えた。

その瞬間、張りのある整った乳房の上部が蛍光灯の光を反射し、艶やかに輝くのがはっきりと見えた。背を向けて数歩進み、視界から消える寸前に垣間見た臀部(でんぶ)は、白く丸く弾けそうな曲線を描き、それを支える脚は真っ直ぐに伸びている。

恭平は開かれたままの窓から目を逸らすこともできず、その場に立ち尽くしていた。

どれくらいの時間が経ったのだろう。彼女は胸に純白のバスタオルを巻き、一メートル四方の窓枠の中に再び現れた。濡れて重たげな長い髪を、先程と同じように後ろ手に掻き上げ、二度三度と首を振った後で両手にバスタオルの端を摘み、左右に真一文字に広げた。

深呼吸する彼女を睨みながら、恭平は息が詰まりそうになる。瀬戸内特有の凪(なぎ)もおさまり、風のある夜半だというのに、恭平は身体中に汗を吹き出し、サッカー・パンツの下の恭平自身は熱く硬直してブリーフの中で出口を探していた。

(これは、今夜だけの偶然なんだろうか!?)

子供の頃、道端に落ちた一万円札を見つけ、世界一の幸運を拾ったような感動に似て、自分の人生に急に光明が差し込んできたかのように、叫びだしたくなる程の僥倖(ぎょうこう)を身体中に感じていた。