【前回の記事を読む】高校の遠足でバスガイドに歌をむちゃぶりすると、「まずは座高の高いあなたから歌っていただきましょう。」と悪口で返され…
地球儀
1
「おい、今度はお前が歌えや」
歌い終わった杉野が、肘で恭平の脇腹を突く。恭平は訳もなく顔を赤らめ、次第に憤りが湧き起こり始める。
「何でや。何で俺が歌わんといけんのや。歌いたいんなら、おまえが一人で勝手に歌え」
「ほうか、ほいじゃあ、俺がもう一曲歌おう。何か、リクエストあるか」
「そんなもん、あるか! 歌いたけりゃ、何でも、勝手に歌え!」
組んだ腕に力を入れ、のけぞった恭平の後部から、女生徒の声がかかる。
「杉野くん、『ヘイ・ジュード』歌って」
「よっしゃ! それでは同じくビートルズ・ナンバー『ヘイ・ジュード』を歌います」
再び、聞き覚えはあるが意味不明のスローな英語の歌が車内に流れ、同調した何人かの女生徒たちが小声で口ずさむ。
置いてけぼりを喰ったような虚無感に襲われ不機嫌になってきた恭平は、幼い頃の同じような出来事を想い出していた。
2
――あれは、担任が大西先生だったから、小学三年生の時だ。
春の遠足の帰りのバスの中、マイクを奪い合っての大合唱が続いていた。マイクが恭平の前の席に座る世良美智雄に渡り、世良は大声で歌い始めた。
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車中は一瞬にして静まり返り、世良は堂々と二番まで歌い終えた。歌い終えた時、その横には担任の大西先生が立っていた。
「小学生が、遠足のバスの中で、そんな歌を歌って、だいたいあなたは……」
叱っている先生のすぐ後ろに立ち上がった恭平は、思い切り手を叩いた。何人かが呼応して拍手した。
「静かにしなさい!」
先生の一喝で拍手は止み、恭平だけが手を叩き続けた。そして恭平も、次の瞬間手を叩くのを止めた。大西先生の平手が、恭平の頬を叩いたのだ。