【前回の記事を読む】「ずっとポケットに手を突っ込んでいるのは、なんで?」彼は笑って僕の腕を掴み、手をその中に……ポケットの袋は貫通していて…

Chapter2 HERO

後半戦の開始を告げるホイッスルが鳴った。円陣を組み、声を掛け合ってチーム・メートは各々のポジションに散った。恭平は再度、佳緒里の姿を確認してから視線をグラウンドに戻し、眉間に皺を寄せ目を細め軽く下唇を噛んだ。

視神経よりむしろ後頭部の辺りに神経を集中させ、鼻から吸い込めるだけの空気を吸い込み、肺がペシャンコになる程の空気を吐き出した。と同時に目を大きく見開き、固く握った両拳を胸の前で合わせ、三角筋と大胸筋に渾身の力を込め、上体を左右に捻りながら背伸びをした。汗ばんだユニフォームの下で、筋肉が小気味よく反応している。

「よしっ!」

独り満足した恭平は、勢いよくグラウンドに飛び出し、味方の背に向かって怒鳴った。

「さあ、この五分間を締まっていけ!」

皮肉なことに、その五分を過ぎた頃、恭平たちは一点を失った。それは恭平の反則による失点だった。

中盤での競り合いから本日絶好調の財津がボールを奪い、ドリブルしながら高宮のマークをかわし絶妙のパスを右ウイングの岡崎に繋いだ。岡崎はトラップすると同時に右にフェイントをかけサイド・ライン沿いに走る構えを見せた。と、密着マークする工藤はまんまとフェイントにかかり、左足を伸ばしタックルを試みた。

次の瞬間、岡崎は素早く体勢を内側に傾け右足でボールを突いてゴール正面に鋭角に切り込んできた。あらかじめ予測してカバーに回っていた恭平は、追うように数歩走り、斜め後方から飛ぶようなスライディング・タックルを敢行した。

ボールより相手の足を狙った反則すれすれのタックルは、恭平の売りのひとつだけど、この時ばかりは恭平の左足はボールのど真ん中を捉え、ボールはゴール・ラインを割った。

ボールを奪われた岡崎は大仰な仕草でもんどりうって倒れ、ホイッスルが鳴るまで起きようとしなかった。

(ペナルティー・キックだ!)

ユニフォームの泥を払いながら、岡崎が首を捻り恭平の方に顔だけを向け、したり顔で笑う。岡崎の演技力が審判の目を上回ったのだ。

舌打ちするだけで抗議する術もなく、立ち竦む恭平のすぐ横のペナルティー・マークにボールを置きながら、財津が扇動してくる。

「恭平さん、邪魔なんですが、退いてもらえますか」