通う学校こそ違うけれど一級下の財津とは何故か気が合い、お互いを認め合っていただけに、この場面での挑発に恭平は頭に血を上らせた。

「うるさいの、万引き野郎!」

半年程前、財津が『徒然草全釈』を万引きする現場を目撃した恭平は、それを強請(ゆす)って大盛りラーメンを奢らせたことがある。咄嗟にそのことを思い出し、言わずもがなの捨て台詞を吐いたせいで、恭平は余計に冷静さを欠いてしまった。

(この野郎! 外せ!)

願いも虚しく、財津の蹴ったボールはネットを揺さぶった。

一対〇。この失点を機に、恭平たち鯉城高校の猛反撃が始まった。しかし、敵のゴールの壁は厚く、得点には至らない。

そうするうちに中盤で大谷が財津と小競り合いを始めた。財津のプレーに業を煮やした大谷が、故意に蹴り上げたらしく、二人とも相当にエキサイトしている。

審判が試合を中断し、二人に警告を与える。その隙に恭平は小走りに駆けより、財津の肩を抱き、笑いながら話しかける。

「おい、今は試合中じゃけぇ、サッカーやろうや。その代わり、試合が終わっても逃げて帰るなよ!」

最後の辺りを早口で捲くし立てると同時に、審判の目を盗んで財津の脇腹に軽い一発を叩き込んだ。

「何するんなら!」

大声で喚く財津を無視し、恭平は走ってポジションに戻る。代わって大谷が応えている。

「一人で怖かったら、応援団呼んでもえぇで……」

実は、この手の脅しにはちょっとした苦い思い出がある。

恭平がまだ一年生の頃。プレーは下手糞で本来は小心者のくせに、負けん気だけは強かった恭平は、練習試合で相手チームの三年生と遣り合ったことがある。

すると、その三年生はニヤッと笑って肩を抱き、

「おい、元気のえぇ一年坊主じゃの。まぁ、今は試合中じゃけぇの。試合が終わったら、二人だけでゆっくり続きをやろうや」

その自信たっぷりの口調に、完全に飲まれてしまった恭平は、試合後の対処に頭を奪われてしまい、プレーに専念できなくなっていた。

「あれ位でビビッていたら、サッカーなんかできんぞ」

試合後、当の三年生から笑いながらの優しいアドバイスをいただいて、あっけなく幕は下りたが、後日、上級生に話して大笑いされた。

それ以来、気の弱そうな下級生を選んで弄んでみるのだけど、案外に利くものだ。

 

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