Chapter1 WINDOW

 

眠ろうとする程に目が冴えて、恭平は寝返りを打ち続けていた。

ストーブの温もりも失せた部屋は急激に冷え込み、毛布は徐々に暖かくなってくる。

パジャマとシャツの裾をたくし上げ、ブリーフの中をまさぐると、強敵に怯え尻尾を巻いた犬のように、縮みあがった恭平自身が、そこにある。

絡み合った陰毛をていねいにほぐし、掌に恭平自身を収める。指先に少し力を入れると、血管が微(かす)かに脈打つのが感じられる。その弱い脈拍で、辛うじてモノとしてではなく肉体の一部としての証を確認できる程に、恭平自身は生気を失っており、指先で軽くしごくように愛撫を試みても、変化は起きない。

萎えた恭平自身を力なく掴んだままで首を回し、枕元のデジタル時計の数字を読む。

〈AM 12:56〉

「あ~あ。今夜だけは、このまま寝ようと思っていたのに」

言い訳めいた台詞を独りごちて、布団から這い出しジャンパーを羽織る。踵(かかと)を踏んでスニーカーをつっかけ、ドアを開けると、小さな雨が音もなく降っている。

「ちぇっ」

明日のことを想い、少し憂鬱な気分になった恭平は、小さく舌打ちする。

十畳ばかりの部屋は、三階にある。三階と言っても、屋上の物干し場の片隅に屋を重ねた屋根裏部屋まがいの物置で、天井も張ってない粗末な代物。露出した二本の梁(はり)は目の少し上の高さにあり、今でも月に一回は頭を打つ。

北向きの小さな窓の他には、建付けの悪いドアがあるだけで、部屋は日中でも薄暗い。

「勉強に専念したいから……」

両親や五歳年上の姉との同居を嫌って、この部屋に起居し始めて既に一年余になる。

しかし、依然として成績に変化は見られない。その一因が、日課となった午前一時からの十数分間にあると知ったら、父親は即刻この部屋を閉鎖してしまうに違いない。

屋根裏部屋のロケーションは、市内一番の繁華街から道路三本外れた処に在り、辺りが次々とビルに建て替わっていく中、取り残されたように古色蒼然たる態を保っている。

間口が狭くやたら奥行きの深いこの建物は、一階が貸事務所になっており、二階の4LDKのスペースに恭平一家四人が住んでいる。

父親は郊外の工場で弁当やサンドイッチを作り、広島に進出して間もない大手コンビニエンス・ストアの店に納品しており、二十四時間三百六十五日忙しいらしい。母親は父親の会社で商品開発を担当し、姉は信用金庫の窓口に座って他人のお金を数えている。