黒く光るピアノの上には、恭平が抱えた地球儀の数倍も大きな地球儀が鎮座していた。赤面し狼狽する恭平の目には訳もなく涙が浮かび、その場から逃げ出したい衝撃に駆られた。それからの時間は苦痛だけで、用意されたご馳走は何を食べても味がしなかった。
幸いにもプレゼントの品は皆の前では開示されなかったけれど、出来るならこっそりと持ち帰りたいと本気で願い、真剣にその方策を考えたが、思い浮かばなかった。
*
「ほら、今度こそ、お前の番で」
小学生時代の思い出に浸っていた恭平に、不意に杉野から突きつけられたマイクを、思わず受け取った恭平は、躊躇する間もなく歌い始めた。
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一気に歌い終えた恭平に大きな拍手と、それを上回る笑いが聞こえてきた。
落ち着いて聞き耳を立てると、拍手しているのは隣の席の杉野だけで、笑いはそこかしこから起こっていた。
「凄いじゃないか。お前の歌、迫力があったで」
恭平は気づかれないように額の汗を拭い、杉野に向き直った。改めて見る杉野は、恭平の1・5倍近くの長い顔をしており、突き出た額の下の窪んだ細い眼が、思い切り笑っていた。その顔を見て恭平が呟いた。
「誰かに似とるな、お前……」
「誰や、裕次郎か」
「馬鹿か、お前は。あっ、コンバットじゃ。コンバットに出てくる大男のリトル・ジョンに似とるんじゃ」
杉野は、再び恭平の手からマイクをもぎ取ると、低い張りのある声でリズミカルなハミングを始めた。
「パパン、パパンパパンパ~ン、パンパ~ンパ、パパンパパ~ン……」
それは、毎週水曜日の夜に聴く人気テレビドラマ、「コンバット」のテーマ曲だった。
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