大きな深呼吸をひとつして、窓を閉めカーテンを引き、薄い影となってしまった彼女を未練がましく見つめながら、恭平はブリーフの中で躍る恭平自身を握り、満天の星空の下で自らを慰めることに没頭していった。
次の日も、その次の日も、十二時を過ぎた頃から物干し台に立ち、明かりの消えた窓を睨んで待った。彼女はほぼ毎日午前一時過ぎに部屋に帰り、窓を開け、裸になる。
十八歳の恭平には、いわゆる水商売の女性に関しての知識は、小説や映画やテレビで得たものしかない。そして、それは決して好ましいものではなかったけれど、あの窓枠の女性だけは、そんな既存のイメージとは一線を画した清冽(せいれつ)な《ヴィーナス》と化して、恭平の中に棲(す)み始めていた。
彼女には、十歳以上も歳の離れた弟がいる。事情あって、彼女は親代わりの仕送りを続けている。酔った男たちからの誘いは星の数ほどあるが、全てに哀しげな憂い顔で首を振り、その表情を目にした男たちは気圧され、怯みながらも恋慕する。
一方、彼女には秘かに想い焦がれ、心惹かれている男性がいる。おぼろ気ではあるが、どうやらそれは恭平に重なる。恭平の決断ひとつで、二人は結ばれる。
実に陳腐で身勝手な妄想を、恭平は真剣に抱き続けていた。そして彼女の詳細な幻影は日を追い、自慰を重ねるに従って膨らんでいくのだった。
そんな《ヴィーナス》との大切な日課を、今晩に限っては放棄しようと決意していた。