笠見平に続々と集まる多集落の人々…
「うまくいっているようだな」
草陰に身を潜める岸谷は盛江を見て言った。
「さあ、どうだか?おい二人、どうだい? あれはうまくいっている感じかい?」
盛江はスソノとイニギを振り返った。スソノは口をへの字にした。イニギは首を傾げ
「今朝シカの骨を焼いたら縦に割れたから、たぶん大丈夫だろう」
「占いかよ」
盛江は口を歪めてユヒトと林の後ろ姿に顔を戻した。全くユヒトって奴はスゴイ――盛江は改めて思った。彼は笹見平の現代人をすんなり受け入れ、わずかな時間で日本語をほぼ完璧にマスターした。スソノとイニギも、ユヒトと同じくらい笹見平と接しているのに、ユヒトほどは適応できていない。だが、よく考えたらそれが普通かもしれない。そう誰もかれも異文化に柔軟になれるものではない。
「お、戻ってきたぞ」
岸谷が言った。盛江が顔を向けるとユヒトと林はもう間近にいた。疲れ切っていたが、笑顔であった。
「ああ、怖かった」
林が口を開いた。
「最初、ぼくのことを贈り物だと思ったらしくて」
ユヒトは苦笑いし、
「マスクをしていると、集落によっては奴隷のように見えるからね。まあ、一応うまくいった。予定の日に代表者が一旦イマイ村に来て、ぼくと一緒に笹見平に向かうことになった」
「これで全集落参加が決まったな」
岸谷は林の肩を叩いた。
「早く戻って説明会の準備にかかろう」