『おいおい、それは虫が良過ぎるというものだ。そんなうまい話なんか、そこいらに……? いや、いや……あ、ある。あるぞ、あるぞ。おい、一つあるぞ。何しろ母親は絶世の美女。娘は母親似で、子供ばなれした美しい女の子だ。おまけに娘は二歳くらいのはず。おい、エドワード。ところでこの話、うまくいったら俺のことも少しは考えてくれないか。いま、商売は一進一退なんだ。将来の俺の夢は、店をフィレンツェで一番立派な画廊にすることだ。お前が応援してくれれば鬼に金棒。そのときはぜひいろいろ助けてくれよ』
『そうか、そんなに良い話があるのか? どんな子だ? 写真は持っていないのか?』
『エドワード、まあそんなに焦るな。この案は絶対に良いぞ。しかし相手がすんなりと手放すかどうかだな? まあ、ここはひとつ俺に任せてくれ。おれたちはやはり永遠に親友だな!』
エリザベスさん、そんなきつい顔をして。恨まないで下さいな。私も自分の店を守ろうと必死だったんだ」
「でも……」
※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
【登場人物】
宗像 俊介:主人公、写真家、芸術全般に造詣が深い。一九五五年生まれ、46歳
磯原 錬三:世界的に著名な建築家一九二九年生、72歳
心地 顕:ロンドンで活躍する美術評論家、宗像とは大学の同級生、46歳
ピエトロ・フェラーラ:ミステリアスな“緋色を背景にする女の肖像”の絵を26点描き残し夭折したイタリアの天才画家。一九三四年生まれ
アンナ・フェラーラ:ピエトロ・フェラーラーの妻、絵のモデルになった絶世の美人。一九三七年生まれ、64歳
ユーラ・フェラーラ:ピエトロ・フェラーラの娘、7歳の時サルデーニャで亡くなる。一九六三年生まれ
ミッシェル・アンドレ:イギリス美術評論界の長老評論家。一九二七年生まれ、74歳
コジモ・エステ:《エステ画廊》社長、急死した《ロイド財団》会長の親友。一九三一年生まれ、70歳
エドワード・ヴォーン:コジモの親友で《ロイド財団》の会長。一九三〇年生まれ、71歳
エリザベス・ヴォーン:同右娘、グラフィックデザイナー。一九六五年生まれ、36歳
ヴィクトワール・ルッシュ:大財閥の会長、ルッシュ現代美術館の創設者。一九二六年生まれ、75歳
ピーター・オーター:ルッシュ現代美術館設計コンペ一等当選建築家。一九三四年生まれ、67歳
ソフィー・オーター:ピーター・オーターの妻、アイリーンの母。
アイリーン・レガット:ピーター・オーターの娘、ニューヨークの建築家ウィリアム・レガットの妻。38歳
ウィリアム・レガット:ニューヨークでAURを主催する建築家。一九五八年生まれ、43歳
メリー・モーニントン:ナショナルギャラリー美術資料専門委員。一九六六年生まれ、35歳
A・ハウエル:リスボンに住む女流画家
蒼井 哉:本郷の骨董店《蟄居堂》の店主
ミン夫人:ハンブルグに住む大富豪
イーゴール・ソレモフ:競売でフェラーラの絵を落札したバーゼルの謎の美術商