ロイド財団
エリザベスは顔を硬直させて反発したが、コジモは仕方なさそうな顔をしながら、話はついに核心に触れた。
フィレンツェに戻ると、私はピエトロを事務所に呼び出した。
『やあフェラーラさん、子供たちは最近どうかね?』
『おかげさまで順調に育って、もうすぐ二歳ですよ』
『もう二つか。まだ小さいが、近頃二人とも母親に似てきて、なかなかの美人じゃないか』
『いえいえ、まだ子供ですからね。ところで今日は何か?』
『こういう話の後ではストレートに言いにくいよ。最近、絵の方はどうかね?』
『コジモさん、お世話になりっぱなしで申し訳ありません。努力してはいるのですが、なかなか結果が……。やはり能力だけでも駄目なのかなと、アンナとも話し合っているところです』
『やっとそれに気がついてくれましたかね。それは進歩だ。ところで話は変わるがフェラーラさん、ロンドンのロイド財団をご存じですかな?』
『もちろんです。私もロンドンに八年もいましたからね。オークション・美術・文化事業など、一手に手がける最大手のグループですよね。それが何か?』
『そのロイドの頂点に君臨するのが会長のエドワード・ヴォーン氏だ。実は私、彼とは大学時代の同級なんだ。まあ今でも一番親しい間柄というわけだよ』
『そいつは凄い。画家仲間の集まりでは、酒が入ると必ず最後はロイドの話になったものですよ。そしていつも結論は〝才能よりロイド〟という戯言が繰り返されるほどでね』