「農学部、一年、沢波俊樹(さわなみとしき)、よろしくお願いします!」

第一印象が肝心とばかり体育会的自己紹介をして、借りたラケットで軽く打ち返す。ボールは左のベースラインのすぐ手前でバウンドし、ボールを集めていた男の先輩の懐にちょうど納まった。

「おーうまいね。テニスやってたの?」

どこまで本気かわからないけど、こんなのでそうまで言われるか?と思っているとさにあらず。明後日の方向に飛んでいく人や当たらない人もたくさんいるのだ。(みんな勉強とか一生懸命やっていて、これからいろいろって人が多いんだろうな)と賢そうな人の中で、少し優位に立てるモノがあったので嬉しくなったが、だから何があるかと思うと複雑だ。

「春田恵美(はるたえみ)、農学部、一年です」

僕の次にいた痩身の女子。広いコートにはっきりと通る声、「はるたえみ」さんか。ん?確か教室で見かけたような。目鼻立ちが整った小顔になびく長い黒髪を後ろで括って、グレーの上下スウェット、ホワイトに薄いブルーのストライプが入ったシューズと、テニスをする格好はでき上がっている。

それにしても、服装と髪型が変わってずいぶん違って見えるからか、はたまた僕の記憶力が弱いのか、本当に同じクラスだったかどうか怪しい。