第3章 東京都立広尾病院事件判決

(2)東京都立広尾病院事件東京高裁判決と医師法第21条

東京都立広尾病院事件東京高裁判決

【1】関係各証拠によれば、Aの死亡に至るまでの経緯及びその後の状況等については、以下のとおりと認められる。すなわち、Aは、昭和五十年関節リウマチを発症し、平成六年から乙病院で治療を受け、この間併発症の高血圧及び甲状腺機能異常も治療していたところ、平成十年八月東京に転居し、丙クリニックで内科的治療を受けたが、左中指疼痛及び腫脹が増強したため、平成十一年一月八日、甲病院整形外科を受診した。

甲病院では、当初被告人が診察した結果、左中指滑膜切除手術を行うこととなり、D医師が手術を担当することになった。Aは、術前検査の結果、血液検査で炎症反応の上昇が見られたほかは、血液一般、生化学、甲状腺機能、胸部レントゲン、心電図検査では特に異常は認められなかった。Aは、平成十一年二月八日、甲病院に入院し、520病棟5号室1ベッドに入った。

入院後もAの血圧は安定しており、全身状態も問題なく、同月九日までリマチル、ロキソニン、レニベース、チラジン及びリンデロンを内服した。Aは、同月十日、D医師により左中指滑膜切除手術を受けた。

術中、血圧の変動も少なく、手術は1時間24分で終了し、成功した。術後も血圧は安定しており、夕方には意識がはっきりし、リマチル、ロキソニン、レニベース、チラジン、プレドニン及びハイペンを内服した。術後の経過は良好で入院期間10日くらいで退院できる予定であった。