それが恋心だと気付いたのはいつのことだったか。干支が一周半も離れた異性を好きになるのは普通ではないと自覚しているが、物心ついた時から当たり前のように寄り添ってくれて少々の頼みなら嫌な顔ひとつせずに叶えてくれ、なんでもかんでも自分第一に物事を考えてくれた人のことを愛して何が悪いと言うのだ、と雛菊は常々思っている。普段のつっけんどんな態度はそうしていないと頬が緩むからだ。

『お嬢。その制服、とても似合っていますよ』

『水着を買いに行く? 見せる相手もいないのに――あ、ちょ、やめてください。イテテテテ! 耳引っ張んないで!』

『今日はクリスマスイブですよ。ボーイフレンドの一人や二人くらいいないんですか? お嬢』

『バレンタインチョコ? 俺に、ですか。ハハッ……参ったな、こりゃ。義理とはいえ嬉しいモンですね。もったいなくて食べられねぇや』

『……気持ちはありがたいですが、お嬢のことは恩人の子どもとしか見られないんです。俺には恐れ多くてとてもとても……。すみません。なーに、世の中にゃ俺なんかより遥かにイイ男がいますからすぐに忘れますよ。そしたら「なんであんなオッサンなんかに~」って笑い話にできますって』

『お嬢、分かってください。これはあなたの為に言ってるんです。お嬢は普通の男と一緒になって、幸せな家庭を築いてください』 

自分に向けられた言葉を思い返して雛菊は自嘲気味に笑った。

「もう……解放してあげないと」

葵から伝えられた死神のルールはメモ帳に写して穴が開くほど読み返したので、一言一句間違えずに諳んじることも可能だ。そのおかげで自分の中では疑念の域を出なかった説が確証に近いものとなった。

雛菊はチキチキチキ、とカッターの刃を出してほの暗い笑みを浮かべた。死に瀕した人へ命を差し出した人間はこの世から存在を抹消される。だが死にかけの人間が都合よく現れるはずもない。

「だったら、自分から作り出せばいい……」

呟いた雛菊の瞳からはハイライトが消えていた。

次回更新は11月7日(土)、11時の予定です。

 

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