【前回の記事を読む】おじいちゃんっ子の娘が「だから、まだ帰れないんだってば」と義父にキレていて…様子を見ていた看護師は「認知症かも」と。まさか…
二 葛藤
美幸のページ
「検査を嫌がったんですか? その理由はなんですか」と聞いてみる。
「こちらの病院がかかりつけではなく、救急で初めてお父様にお会いするのでよくわかりませんが、一般的には検査をしたがる人と怖がる人が両極端になる傾向があります。認知機能の低下をご自分で自覚されている人は大勢いますので、検査で明るみになるのを恐れている方もいます。
ただ検査をしないと数か月経って、脳内出血を起こした時、事故との因果関係の証明ができなくなるおそれがありますから、検査を受けた方がよいというのが医師としての見解です」と言われた。
「まさかそんな」と思った。来年八十歳になるとはいえ、まだ呆ける年ではないだろう。
「なんでこんなことになるの。最悪だ」
医師が声をかけているのが聞こえなかったようだ。少し大きな声が聞こえた。
「大丈夫ですか。言い方が悪かったようで必要以上に不安にさせてしまったようですね。私たちとしては可能性がある疾患のことはお伝えしておかなければならないとお考えください。ですから脳の検査を行うことをご本人に了解してもらいたいのです。実は無理に検査をしようとして、検査中に動いてしまうと正確なデータが取れないのです。だから同意が必要なのです」と言われた。
「わかりました」と返事をするしかなかった。でも頭の中はこれからのことでいっぱいだった。今日、義父が自宅に泊まることに今気がついた。とりあえず二人が来ても泊まれる部屋があったことだけはよかったと思った。後はなんとかするしかない。
夫には病院に来るまでに連絡し「検査が必要ならしてもらってくれ」と言われていた。まだ大事な商談のめどが立たないため、最低十日は帰れないとのことだった。仕方がないので私が何とかするしかない。
義父と麻衣のいる場所に戻ると、義父は麻衣の横でうとうとしているようにも見えた。さすがに疲れたのだろう。どう話をするか迷っていると、眠っていると思っていた義父が「麻衣ちゃんがそこまで言うんだったら検査を受けて早く帰りたい」と小さな声で呟いた。「ほんと? 看護師さんに話しに行ってもいい?」
麻衣が安心したように話をしている。「麻衣。私が看護師さんに話をするのでおじいちゃんの側にいてあげて」と声をかけ、検査を受けることを承諾したことを看護師に伝えた。