敏のページ

麻衣に「パパ、おじいちゃんたちのことだけど」と言われ、身構えてしまった。麻衣には何かと両親のことでは世話になっていて感謝しているのに、いざ両親の話を切り出されると顔がこわばってしまう。正直困った。麻衣は本当に両親のことを心配しているだけに誤魔化せないと思った。

でも母とは仲たがいをしているわけではないが、父とは溝があった。あのこと以来、長野に行って父に会うことは、何か用事があって呼び出される時だけだった。それも数年に一度しかなかった。自分から会いに行くことは、皆無だった。

「パパ、おじいちゃんたちのことは話したくないんだね。私はただ二人が心配なだけなんだけど」「麻衣には世話になっていると思っているよ。ありがとう。パパの親だから、パパももう少し時間を割くようにするよ。だからこの話は終わりにしよう」

「どうして終わりになるの? まだ何も話していないのに」

もう三年も近くにいるのに、自分の生活から父親は遠ざかっていた。ずっと母とは連絡を取り合い繋がっている実感があった。妹ともそうだ。だから母とは疎遠ではないと思っていた。でも父とは違っていたんだろう。

本家のいとこから連絡があった時、本当はこちらに来てもらうことに抵抗があった。でも、「お前はあの二人の子供だろう」と言われると言い返す言葉がなかった。こちらに来れば、何かと面倒を見なければならなくなる。一時的に同居することになれば、今までの生活が根底から崩れる可能性がある。それは避けたかった。

母親は「近くに行くだけで、あなたに迷惑をかけないようにするから。ただアパートの契約や病院で入院する手続きや付き添いなどお願いしなければならないことは出てくると思う。本家の知之さんから、『地元で治療できる病院がないんだから、この際、敏の近くに行った方がいい。家族として関わらなければいけないことを考えたら、中途半端に遠いところじゃ敏も大変になるから』と言われたの」と言い訳をしていた。

本家の知之さんは、これを機に昔のように仲良くなれればいいと思っているようだった。本音を言えば自分の親の面倒を見るのが精いっぱいで、敏の親までは勘弁してほしいと思っていたようだった。

今、仕事が忙しく、親のために時間を割く余裕がない。週末は接待で出かけることも多く、毎日打ち合わせや業務のため帰宅はいつも遅かった。美幸も共働きで保険会社に勤めていて、仕事の他に家事と子育てをほとんど担わせていることに負い目があった。

だから、こちらに来るとわかった時、それとなく美幸に親のことを相談してみた。親が病を抱えていて近くに住むとなると、どうしても美幸にも関わってもらうようになる。親の面倒まで見てもらうことは頼みづらかったが、美幸がどう考えているか知っておきたかった。

「自分の親なんだから、あなたがまず時間を工夫してやっていくべきでしょう。今は介護休暇も取れるんだから。どうしてもできない時はその時考えよう。今そのことで言い争いはしたくない」と少し冷淡に言われた。その言葉は自分の期待に反したものだった。

 

▶この話の続きを読む
結婚と上京を決めた僕に、父は「縁を切ったと思え」と…だが今になって突然、近所に越してきて「世話になる」と…

👉『雲のきざはし』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】どのような経緯で二人きりになったのか、どうしてホテルに行くことになったのか覚えていなかった

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp