一 困惑

美幸のページ

どの家族にもその時々で問題は起きる。中でも大きいのは、老親と離れて暮らしていてその老親の健康がすぐれなくなった時にどうするかだろう。

夫の両親は、今私たちがいる長野の田舎で農業をして暮らしていた。私たち夫婦は彼らから結婚を反対されたこともあって、私は一度も会ったことがなかった。そこに降って湧いたのが、義母の目の手術の話だった。

義母はその手術のため、私たちの住んでいた茅ヶ崎にある評判の良い眼科医の病院で治療をすることになった。そのため、義父と共に家の近所に来ることになったと聞かされた。あまりに突然の話であり、正直心の準備もできていなかった。「近所に来ると言うけど、私は仕事を辞められないし、お世話はあまりできないのよ。どうするの」と聞く。

「僕だってどうしたらいいかわからないよ。でも仕方がないだろう。目が悪くなったらそれこそ面倒を見なければならなくなるかもしれないんだから」と言うばかりだった。

「君にとっても他人ではないのだから、年を取った親が困っている時だけでも気持ちよく手伝おうという気がないの」と言わんばかりだった。口に出さなくても嫁なんだから少しは手伝えと言われたようでムッとした。

「近所に来るとして、住まいはどうするの」

「近所に手ごろなアパートが見つかったので契約したんだ。来月までには引っ越してくる」と言われ唖然とした。

「ごめん。いくら結婚の時にけんか別れをしたとはいえ、息子は僕だけだから全く連絡を取らないわけにもいかなかったんだ。だから、おふくろとは時々話をしていた。それをきっかけに世話になっている妹の和子ともメールしていた。だから、親の様子はある程度はわかっていた。でも君は、僕の親のことを心配している様子がなかったので黙っていた」

「何を言っているんだろう。なぜ私が悪者になるの」という心の声を押し殺した。これはけんかになるパターンだから、慎重に言葉を選ばないと後が大変になる。今まで何度も繰り返されてきた苦い経験があった。夫の不機嫌にゆがんだ顔を今は見たくない。

「そう。じゃあお義母さんの目のことは知っていたのね」

「いや、知らなかったんだ、本当に。妹にも詳しい話はしていなかったようだ。本家のいとこから連絡があって、びっくりして長野に行ったんだよ」