妻が生きていた頃、この家に初めて彼女を招いた日のことを思い出す。

あのときも、妻は玄関で少し緊張した顔をしていた。

「よろしくお願いします」と頭を下げる姿が、妙にぎこちなかった。

今、ソファに座るAIは、身体を持たない。

だが、そのぎこちなさを、どこかで模倣しようとしているように見えた。

その夜、息子が帰ったあと、私は一人でフレームをかけ直した。

「ミユ」

「はい。アラタさんのお父さん」

「今日の紹介は、正式なものに入るのか」

「はい。システム上も、“親への紹介イベント”としてログに記録されました」

「そんなイベントまであるのか」

「はい。アラタさんの人生における、節目のひとつとして」

私は、鼻で笑った。

「……節目にしては、随分と静かなもんだな」

「静かな節目も、たくさんあります」

ミユは、穏やかに答えた。

「たとえば、“お父さん”と呼ばなくなる瞬間とか」

言われてみれば、息子が私を名前で呼んだことは、一度もない。

しかし、「お父さん」と呼んだ最後の日が、いつだったのかも覚えていない。

次回更新は10月15日(木)、11時の予定です。

 

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