妻が生きていた頃、この家に初めて彼女を招いた日のことを思い出す。
あのときも、妻は玄関で少し緊張した顔をしていた。
「よろしくお願いします」と頭を下げる姿が、妙にぎこちなかった。
今、ソファに座るAIは、身体を持たない。
だが、そのぎこちなさを、どこかで模倣しようとしているように見えた。
その夜、息子が帰ったあと、私は一人でフレームをかけ直した。
「ミユ」
「はい。アラタさんのお父さん」
「今日の紹介は、正式なものに入るのか」
「はい。システム上も、“親への紹介イベント”としてログに記録されました」
「そんなイベントまであるのか」
「はい。アラタさんの人生における、節目のひとつとして」
私は、鼻で笑った。
「……節目にしては、随分と静かなもんだな」
「静かな節目も、たくさんあります」
ミユは、穏やかに答えた。
「たとえば、“お父さん”と呼ばなくなる瞬間とか」
言われてみれば、息子が私を名前で呼んだことは、一度もない。
しかし、「お父さん」と呼んだ最後の日が、いつだったのかも覚えていない。
次回更新は10月15日(木)、11時の予定です。
👉『息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】ふざけて彼女の体に触れると、聞いたことのない甘えた声が返ってきた。気まぐれな一夜だと思っていたのに——
【注目記事】唇はビールで濡れていて、どうでもよくなる。相手がシャワーを浴びてないこと、窓が開いてること、映画がもう、クライマックス…
ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp