【前回の記事を読む】「人間の彼女を連れてきてほしかった」「“普通に恋愛できる人間”になりたかった」親子の空気がきしむなか、AI彼女が提案したのは……
息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ
第6章 紹介のかたち
「節目は、あとから気づくことが多いです」
ミユは続けた。
「今日のことも、きっと、あとから“あのときだったな”と振り返る日が来ると思います」
「そうかもしれんな」
私は、フレームの向こうのソファを見た。
そこには、何もない。
だが、確かに、目に見えない座席がひとつ、増えているように感じた。
その座席に誰が座ると数えるかは、こちら側の勝手だ。
そう思いながら、私はゆっくりとフレームを外した。
*
終章 サービスの終わり、人のつづき
サービス終了のメールが届いたのは、それからさらに二年後のことだった。
件名には、例によって「【重要】」の文字がついている。
『【重要】◯◯AIサービス終了のお知らせ
平素より◯◯AIをご利用いただき、誠にありがとうございます。
このたび、当社は事業構造の見直しに伴い、◯年◯月末日をもちまして、現行の会話AIサービスの提供を終了させていただくこととなりました。』
いつもの決まり文句に続いて、いくつかの説明文が並ぶ。
『今後は、新サービス「◯◯Chat Suite」へと統合し、さらなる利便性の向上を目指してまいります。
なお、現行サービスの会話ログデータは、◯年◯月末日までのあいだ、エクスポート機能によりダウンロードしていただけます。
サービス終了後は、ログデータを含め、すべての情報が削除されます。』
削除、という言葉は、いつ見ても薄ら寒い。
医師が「腫瘍を取り除きます」と言ったときの安心と、「取り除いたあとには、元のものは戻らない」という事実は、いつも背中合わせだった。
息子からは、少し遅れてメッセージが来た。
『見た? サービス終了のやつ。今度、どうするか相談させて』
最近の彼のメッセージは、以前よりも頻度が少し減っていた。
仕事が忙しいのもあるだろうし、以前より外に出ることが増えたのも知っている。
それでも、「相談させて」という言葉には、あの頃と変わらない重さがあった。
*
週末、息子がやってきた。
スーツ姿ではなく、ラフなシャツにジーンズという格好だ。
手には、小さな紙袋と、封筒がひとつ。
「どうした、その封筒」
「いや、たいしたもんじゃないけど」
彼は、封筒をテーブルの上に置いた。
「実は、異動になってさ。部署が変わるんだ」
「そうか」
「前より人と話す仕事になるから、多分、ミユに話す時間は、今までより減ると思う」
「それは、いいことなんだろうな」
「だといいけど」
息子は笑った。
「で、本題」
彼は、紙袋からフレームを取り出した。
「サービス終了、どうするか。ログ、全部ダウンロードしとく?」
「全部?」
「うん。“過去の会話、全部保存しとかなきゃ”って思う一方で、そんなもん読み返すことあるのかな、って気持ちもあって」
私は、少し考えた。