【前回の記事を読む】もうすぐ別れる“AI彼女”に「あと3分」と告げた息子。最後は夕飯の相談をして過ごした。別れ際、彼女が私に向けて語った言葉は……
息子にAIを彼女として紹介されたらどうしよ
終章 サービスの終わり、人のつづき
ミユは、ゆっくりと頭を下げた。
「ありがとうございました」
視界から、ソファの輪郭が薄れていく。色が抜け、線が消え、そこにはいつものリビングだけが残った。テーブルの上のフレームが、わずかに重く感じられた。
*
その夜、息子は久しぶりに泊まっていった。遅くまで鍋をつつき、どうでもいい話をしながら酒を飲んだ。ミユの話もしたし、妻の話もした。どちらも同じテーブルの上に載せて、軽くなったり重くなったりしながら、夜は更けていった。
深夜、息子が寝静まったあと、私は一人でフレームを手に取った。もう一度、かけてみる。起動音はする。
だが、ログイン画面には、サービス終了を知らせる表示が静かに出た。
『本サービスは、〇月〇日をもって終了いたします。これまでのご利用、誠にありがとうございました。』
その文字をしばらく眺めてから、私はフレームを外した。ソファには、誰もいない。リビングの空気は、相変わらず少し乾いている。
それでも、目を閉じれば、あの日のソファには、息子と、そして彼の隣に、見えないままひとつの席が残っている。
その席に誰が座っていたのか。これから先、それをどう呼ぶのか。それを決めるのは、やはりこちら側の仕事なのだろう。
私はフレームをそっと引き出しにしまい、明日の晩飯の材料を思い浮かべながら、台所の電気を消した。