それから数年経ったまた別の春の日。
畳敷きの広い部屋の真ん中に敷いた布団に、祖母は小さな体を横たえていた。もう長いこと、祖母は体を悪くして入退院を繰り返していた。病は少しずつ祖母を侵食し、最終的には乗っ取ってしまおうと目論んでいるようだった。
外を見たいと言う祖母のため障子は開け放していたので、庭の様子がよくわかる。
「モッコウバラのところに、女の人はいるかい?」
すっかり聞き取りにくくなった小さな声で祖母が私に聞いた。
「いるよ」
「そう」
祖母は頷いて、私を見た。
「心配しなくていいよ。あの人たちは何もしない。ただそこにいるだけだから」
「どうして、ああして立っているの?」
「寂しいんだよ」
そう言って祖母は口元に右手の人差し指を当て、最後にもう一度念を押すようにこう言った。
「黙っているんだよ、花蓮(かれん)。お前の胸の中だけにしまっておおき」
それが祖母との最後の会話になった。
祖母亡きあと、祖母が一人で住んでいた家は取り壊された。庭のモッコウバラ
もアーチと共になくなった。
大好きな祖母の家がなくなってしまったことに、私は言いようのない悲しみを覚えた。
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