すると祖母は私の指さす方を眺め、しばらく黙っていたが、やがて意を決したように、
「お前にはあれが見えるのね」
「見たこともない女の人だよ。どうやってここの庭に入ったのかな」
「私だけに備わった力だと思っていた。まさかお前に受け継がれていたとはね」
それから祖母が私に話してくれたことは驚くべきものだった。私には「他の人には見えないものが見える」というのだ。ごく少数ではあるが、世の中には何人か同じ能力を持った人々がいて、それは透視能力とか霊視能力と呼ばれているという。
その力にも個人差があり、私や祖母のようにそこにはいないはずの人たちが見える人もいれば、蓋を閉めた箱の中に入っている物を見通せたり、裏返しになっているカードの図柄や数字を正確に言い当てたりできる人もいるらしい。
「見えないものが見える力、それは望んで手に入るものではないけれど、いらないからといって手放すこともできないの。生まれた時に与えられた宿命みたいなものなのよ」
祖母はそう言った。そうなんだ。どちらかというといらないな……と私は思った。他の人と違う能力なんて仲間外れにされそうな気がしたからだ。
「あの女の人は一体誰なの? あんな人、私は見たくないのに」
祖母が作ってくれたキツネうどんをすすりながら私が聞くと、
「あの人はもうずっと、この時期になるとモッコウバラのアーチのところに来るんだよ。モッコウバラの花が咲くのを待っていたみたいにね」
「他の人には見えないの? お母さんにも」
「お母さんにもお兄ちゃんにも見えないのよ。見えるのはお前と私だけ」
祖母はさも愛しそうに私を見つめた。
「だけどね、これは二人だけの秘密。誰にも話しちゃいけないよ」
なぜ話してはいけないのか、私がそれを祖母に尋ねることはなかった。それが聞いてはいけないことであるのは、頭や知識以外の何かで幼い私にも何となく理解できたからだ。黙っていること……それこそが最も重要で、また唯一私を守ってくれる砦になるのだと知ったのは、ずっとあとになってからだったが。