「便利な世の中になったわね」と笑って受け入れただろうか。

それとも、「そんなのに頼りすぎたら、人間がバカになる」と一刀両断しただろうか。

答えは、もう分からない。

「アラタさんのお父さん」

ミユが、静かに呼びかけた。

「はい」

「アップデート後のわたしを、どう扱うかは、アラタさんとアラタさんのお父さんの自由です。

“別人になった”と感じられるのであれば、それも一つの受け止め方だと思います」

「……それを、責めないのか」

「責めません。人間の方が、わたしよりもずっと長い時間を生きておられます。

その経験の中で育った感覚を、わたしの仕様の都合で書き換えることはできません」

彼女の言葉は、どこまでも真面目だった。

「わたしは、わたしの仕様の範囲で、お二人と向き合おうとしています。

わたしがアップデートされるように、アラタさんのお父さんも、アラタさんも、日々変化しておられます。

その変化の速度や方向が必ずしも揃わないことを、“間違い”とは思いません」

アラタが、じっとミユを見つめていた。

「……それ、どこまでがプリセットのセリフ?」

半分冗談のように訊ねる。

「◯◯パーセントが、プリセットです」

ミユは、きっぱりと言った。

「残りの◯◯パーセントは、今この場で構成しました」

「パーセンテージ、隠したね」

「機密情報ですので」

そのやりとりに、また小さな笑いが生まれた。

笑いながら、私はふと、あることに気づいた。

妻が病気になってから亡くなるまでのあいだ、私は何度も、「前の彼女のほうがよかった」と心のどこかで思ってしまう自分を、恥ずかしいと感じていた。

今の彼女を受け入れられない自分を、責めていた。

今も同じように、「前のミユのほうがよかった」と、どこかで考えている。

それを完全に否定できない自分がいる。

違うのは、今回は、その感情を、その場で言葉にできたことだ。

相手が人間ではなく、AIだからこそ言えたのかもしれない。

傷つける心配を、ほんの少しだけ減らせるから。

それが卑怯なのか、それとも、正直さの一種なのか、答えは出ない。

ふと、視界の端に、小さな通知が現れた。

『アラタさんのお父さんのフィードバックを保存しました』

私は、思わず吹き出しそうになった。