【前回の記事を読む】タイムカプセルから、殺害に関する告白文が見つかった。その頃、地元新聞で取り上げられた高校のリンチ事件と関わりが…?

(二)

「浜道にはくれぐれも慎重に行動するように話しておきます。それと、捜査情報があればチェックしておきます。その方が相談されたとき対応しやすいでしょう」

玉田は、清一が既にリンチ事件のことを調べていたので嬉しかった。

「助かるよ」

「ところで、久しぶりに“せんぱち”へ行ってみませんか。大女将も喜ぶと思いますよ」

“せんぱち”の大女将は、苦労人で肝(きも)の据わった人物だ。清一と玉田は事件があるたび“せんぱち”を訪れては、捜査のアイデアを出し合ったり、解決したときには慰労会をしたりしていた。

大女将の人生体験は捜査に役立つことが多く、捜査が壁に突き当たった時には考えもつかないヒントを提供してくれた。

清一の平常勤務は、翌日以降も変わらなかった。清一が浅虫の交番を訪れた時のことだった。

「触ったじゃない」

という女性の声。

「触ってね」

と否定する男の声が聞こえてきた。威勢がいいのは女性の方で、男が受け身なのはすぐに分かった。

「どうしたんですか」

交番に入るなり、清一が尋ねた。

「女の人がこの男の人に尻を触られたと、車掌に訴えたんです」

と、巡査が答えた。

「そうなんです。二度も痴漢行為をしておきながら知らんふりしているので、車掌さんに話したんです」

と、女性の剣幕はいまだに収まらなかった。

「わ、ドアの棒に掴まっていたんだたて、小湊(こみなと)で乗り込んできた男がぶつかってきたして、つい肩をあててしまったたて、尻さだきゃ触っていね」

男が困り顔で言った。

「いいえ、この人です」

女性は、男の言い分など聞きたくないとばかり突っぱねた。

そばで聞いていた清一は、巡査に任せようと思い、奥の机の上に交通安全のパンフレットを置いて帰ろうとした。すると、巡査がさっと近寄ってきて耳打ちした。

「何か言ってもらえませんか」

職務以外のことには口を出さないことにしていた清一だったが、この場の空気が何もしないで立ち去ることができない雰囲気になっていた。被害者の女性も加害者とされた男も、そして、担当の巡査もその場に凝り固まっていたからだった。

「あなたは、裁判をしても認めさせたいんですね」

清一が女性に向かって言った。

「見逃すわけにはいきません」

「あなたは、無実を勝ち取るために名誉棄損で訴えるんですね」

清一は女性の返答を待って、男に具体案を突き付けてみた。

「仕方ありません」

男が、顔を紅潮させて言った。

「僕が見るところ、二人とも嘘を言っているとは思えません。本当に運が悪かったんでしょう。怪しいのは、小湊で乗車した客かもしれません。でも、証拠はありません。こんな時は、お互い信じてみるのはどうでしょう」

清一はそう言って、二人に一礼して外へ出た。部外者が、これ以上口をはさむべきでないと判断したからだった。